エイテック 開発C/S課 リール担当  片桐  尚久

Marfixエンジニア

エイテック 開発C/S課
リール担当 片桐 尚久

Marfixとの出会いや誕生秘話を教えてください。

そもそもMarfixは、日本製の強固な泳がせリールが少ない30年以上前にペンリール(インターナショナル)を参考にして開発したレバードラグシリーズでした。最初のサンプルはPENNのレバードラグの構造に「ネジリン棒」と呼ばれるラインガイドを付けた試作品を作りました。まあ、世の中には出なかったんですけどね(笑)。

そこからこのMarfixがゲームフィッシングのトローリングに舵を切ったのは、オーストラリアのガイドさんとの出会いがきっかけで、当時のオリムピック(後のマミヤ・オーピー)の経営者が彼に会って、トローリング、ゲームフィッシングがこれから重要なカテゴリーになってくるのではないかと感じ、トローリングの世界に入っていきました。当時メールもまだなかったのでFAXを使って彼とやり取りしていきましたね。

その中でも、プロのガイドとして、彼が提示してきた必須項目が

  • 頑丈であること
  • 構造が簡易であること
  • ドラグがよいこと

でした。
この項目は現在のMarfixにも継承されています。

ゲームフィッシングに携わるようになって、JGFAが主催している「JIBT(国際カジキ釣り大会)」をはじめとした全国のトーナメントにメカニックスタッフとして参加させてもらったのは、貴重な体験でした。この当時、開発と販促に携わっていたスタッフで考えた名前がMarfixです。“マリンフィッシング”とか“マーリンフィッシング”から名付けたと言っていたような記憶があります。

ゲームフィッシングのリールの中で好きなレバードラグのリールがあって、「フィンノールライト12-20」という機種があります。当時、カモシ釣りなどで使われていたこの機種をベースに、「ディープジギング専用機を作れないか⁈」というある企画担当者からの要望が現在のMarfixのルーツになります。そこからスタートしたのが、今のMarfixの原点でもあるマミヤ・オーピーのMarfix J-Systemです。

その後、さまざまなMarfixの開発に携わってきた中で、やはりモノづくりはトライ&エラーでしたね。初代のMarfixを作ってから最初に問題が出てきたのがクラッチディスクのアルミとコルクでドラグをオン・オフしている間に隙間に水が入ってしまうという問題がありました。水が入ってドラグがスリップしてしまうという現象です。何とかしようと夜な夜なシャワーで水をかけながらどうやったらドラグのスリップを防げるか仲間たちと考えて克服することができました。今のクラッチディスクに不思議な溝があったりとか穴が開いていたりとかするのは当時の仲間たちと工夫していた形となっている部分ですね。

他にも、この企画担当者から様々な要望がありました。今はもう付いていませんが、横からサミングできるアシストボタンがあったり、軽量化するためにドライブギアに穴をあけてみたり、ドラグレバー軽量化を試作してみたりとか・・・。この企画担当者の情熱は半端ではなく、私が図面を描いていると、彼が思いついたスケッチをもって横に来て、「こんな機能をつけたい!こうしたい!ああしたい!」と言ってきて、「ドラえもんのポケットではないのだから、何でも出てくると思わないで欲しいよ」と、よく言い合いもしましたね(笑)。「言うのは簡単なんだけど、形にするのってすごく難しいんだよ」ってよく言っていました(笑)。

それでも熱意におされて、ジギングに行く串本までの車内で、湯水のように出てくるアイデアを語り合ったのは、良い思い出になります。今のMarfixがあるのは、多くの仲間がいて実った結果であり、自分一人ではとてもできなかったと今でも感謝しています。

その後、オプション展開などを充実させる予定でしたが、残念ながら2001年にマミヤ・オーピーの釣具事業撤退で、Marfixブランドは一時リョービブランドに引き継がれて、現在エイテックが取り扱う形になりました。

携わって何年になりますか?

そうですね、オリムピック(マミヤ・オーピー)時代を含めると30年近くになっちゃいますね。マミヤ・オーピーを退社してから8年くらいは釣り具業界からは離れていました。ある日マミヤ・オーピー時代のあの企画担当者から「エイテックがMarfixを扱い始めたらしい」という話を聞いて、何気なくホームページを見ていると求人欄にカスタマーサービスの募集があるのを見つけてしまい、応募したのが今でもMarfixに携わっているきっかけになりますね。エイテックに入社してから今年で12年目です。私は今年56歳なので、人生の半分以上はMarfixに携わっていることになりますね(笑)。本当に長い付き合いになります。

カスタマーサービスから見るMarfixについて教えてください。

2010年に発売された青いころのMarfixだと泳がせで使ってくれているユーザーさんもいて、かなり酷使されてカスタマーサービスに届くこともあったのですが、その状態であってもギア周りが壊れていたことはなかったですね。

ギアの歯の大きさ、モジュールっていうのですけど、普通のベイトキャスティングリールの多くは0.4㎜くらいで小さいですけど、Marfixだと0.7㎜になっています。つまり、ギアの歯そのものが大きいこともあって、強度が出ている事も壊れにくい要因でもあると思います。1点1点のパーツの強度や大きさも相まってギア周りは壊れにくいですね。

あとはハンドルの軸周りが頑丈で変形しにくい。何よりアルミの無垢材から削り出しているボディーなので筐体にゆがみが出にくい構造になっています。プレスで作る軽さ重視なリールですと、どうしてもハンドルを巻くときにボディーが歪んでしまう事もあるので、その点でもMarfixはボディーの歪みも無く、より長く使えるリールなのではないかと思います。実際、同じお客さんが定期的にメンテナンスに出していただく事もあって、「あ、このシリアルナンバー見たことあるなー」とか「このグリスの塗布の仕方は自分のやり方だ」とか「この部品は前に自分が修理したことあるなー」というようなリールも数多くあるので、本当に一度持っていただいて、長く使っていただく事や、何台も持ってくれていると非常にありがたいなあと感じます。

カスタマーサービスを始めて思い出に残るユーザーのMarfixを教えてください。

自分がエイテックに入社して最初のころは、まだマミヤ・オーピーが撤退して10年経っていないころで、まだ市場に流通しているMarfixは当時のJ-Systemとかリョービブランドの昔のMarfixでした。そういった物が修理として届くことがありました。

最初は何とかしてあげたいと思って、手を付けたのですが、やはり部品の互換性がなかったりする場合もあったので、昔からMarfixを使ってくれているユーザーさんの要望に応えられなかったというのは残念なところでしたね。修理などのお問い合わせにお応えできないのが、少し心苦しいのですが、内部構造をアップグレードしていて、一部互換性のない部品や、万が一部品の破損・変形が発生したした場合に責任を持てないので、お断りしている事をご理解いただければと思います。

あとは、実際に最初に生産を始めた時と同じですが、お客さんからのご意見でまだまだ新たな事に気づかされることもありますので、工場と連携を取りながら良い物へと改良していければいいなと思っています。

N4~W6の内部構造について教えてください。

ノーマルタイプから、現行モデルと同じサイレントモデルになって10年以上になります。今、一般的にはワンウェイクラッチを使うことが多いのですが、N4~W6には今どき珍しいサイレントストッパーの構造でラチェットと爪(ストッパー)の間に案内板があり、ハンドルを巻いているときは爪が逃げるような構造になっています。逆転しそうになる時に爪がラチェットに呼び込まれて逆転を止めるというような構造ですね。若干、ハンドルの戻しに遊びが出るような形になっています。この遊びが好きだっていうユーザーさんも多いです。(オプションパーツとしてワンウェイクラッチキットも発売中です。)

ワンウェイクラッチだけでもそれなりの強度とトルクが確保できていますけど、Marfixはドラグも強いのでラチェットと併せての使用をお勧めしています。ラチェットを外されているユーザーさんや、爪を1つにしているユーザーさんも中にはいらっしゃいますが、最近のワンウェイクラッチの精度が上がってきているとはいえ、温度差や使用環境、使用年数などによっては構造上、空滑りをしてしまう可能性がゼロとは言えないので、ラチェットと併せて使ってもらうことをお勧めします。N4~W6を使うような釣りでは規格外の大物とのファイトもあると思うので、ワンウェイクラッチを付ける際にはラチェットは残しておいたほうが安心ですね。

N4~W6はスパーギアと言っていわゆる“平歯歯車”と呼ばれるギアなのですが、ギアの精度が低いとノイズが出やすい構造です。また、どうしても構造上、案内板がラチェット表面を擦れる感触が少なからずハンドルに伝わってきてしまいます。そのため、スパーギアのギアノイズとラチェット周りのノイズが相殺しあって、今の巻き心地になっているのですが、ユーザー様にも構造上こういうものとしてある程度、理解して頂いております。

C3でなぜヘリカルギアに仕様変更しましたか?

C3を開発するときにも開発スタッフと工場が試行錯誤して作り上げたモデルなのですが、ボディー形状を変えずに、どうしても1巻100㎝というMarfixの流れを生かしたかったので、何とか小さなボディーにギアを収めるための工夫しながら作ってきました。それによって、ギアは今までのスパーギアとは違い、“はすば歯車”というヘリカルギアを採用しました。

このヘリカルギアにすることによって、ノイズが出にくいギアになっています。また、ラチェットを使わずにワンウェイクラッチのみでの開発を進めました。

このC3はN4以上のリールとは違い、より繊細な釣りをすることを想定しています。そのため、スプールを伝わってくる感度を上げるため、ラチェットを外し、ノイズが少ないヘリカルギアを採用しました。ヘリカルギアで発生するスラストの影響もテスト釣行を繰り返し行っている中で、C3では見られませんでした。ギアの大きさ、モジュールは0.6㎜のものを採用しています。N4以上のリールよりは小さいサイズを使っていますが、一般的なベイトキャスティングリールと比べるとかなり大きいほうだと思いますよ。なので、リールをコンパクトにしても壊れにくく頑丈なギアになっています。

今回このC3を作る際に、いろいろと試行錯誤しながら巻き取り量ですとか、ギアの外径とかを決めてきて、サンプルをテストして今の形になっています。

普段のお勧めのメンテナンス方法について教えてください。

シンプルな構造なので部品の紛失に気をつけていただきながら、分解し汚れを拭き取り、純正のグリスを塗布してもらえれば良いと思います。特にドラグレバーにあるテンションボールなどは無くしやすい部品なので注意してください。錆に強いステンレスを使っていますが、使っていくうちにステンレスとステンレスの隙間、例えばネジとボディーの隙間に塩がたまってしまい、腐食の原因ともなるので綿棒などで拭いて塩気を取り除いていただくとより長くお使いいただけると思います。

分解まで行わない日々のメンテナンスをするだけでも変わってくると思います。具体的にはドラグを閉めて、流水で塩分を流したあと、よく乾かしていただけたらいいですね。固着を防ぐためにも保管の際にはドラグをフリーにしておいてください。

最後にユーザーに向けてメッセージをお願いします。

あんまり偉そうなことは言えませんが、、、(笑)。私の好きな言葉に温故知新「故きを温ねて新しきを知る」というものがあります。Marfix J-Systemが発売されて20年以上経っているのですけれども、「頑丈であること」「構造がシンプルであること」「ドラグがよいこと」を主軸に置いて今まで作ってきました。今の世の中、新しい物、新しい機能がどんどん出てきていますが、このMarfixを愛してくれているユーザーの皆様のためにも“Marfixらしさ”を引き継いで今後も作っていきたいと思っています。

また、シーズンによってタイトに使われると思いますが、ぜひシーズンオフにはオーバーホールに出していただければ丁寧に中身をみていきたいと思います。特にベアリングなどは消耗品なので、いざ次のシーズンになって使おうと思ったときに不調になっていると困ると思いますので、定期的にオーバーホールに出していただくことをお勧めします。

今後とも見守って、使っていただければと思います!ありがとうございました。

エイテック 開発C/S課 リール担当 片桐 尚久

Marfixの開発段階(マミヤ・オーピー社)からこのリールに携わり、30余年。開発段階の構想から現在に至るまでMarfixを常に見守り続けている。長年の経験から習得した技術で、ジギングアングラーが酷使したMarfixを最善の状態に再生させる名リペアマンでもある。

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フィッシングガイド DEEPLINER 東村 正義 船長

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